遺言書とは、お年寄りだけが書くべき文書なのでしょうか・・・というご質問をいただくことがあります。
わたくしとしましては、(実は)そんなことはありません!と力説したいところです。
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その理由を、本投稿記事により記載いたします。
まず初めに、この記事をご覧になっている方は、現在、配偶者の方がいて、さらに未成年の方を扶養しています、といった状況であると、仮定してください。
もしも旦那さんであれば、奥様がいて、お子様がいらっしゃる・・・というイメージです。
もしかしたら、一戸建て住宅や、分譲マンションを所有されているかもしれませんね、というイメージです。
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万万が一、あなたにもしものことがありますと、配偶者の方と未成年の方が遺されることになるわけですね。
前の投稿記事でご紹介しましたように、統計上は、超ざっくり0.1パーセント程度のようです。
そんなこと、想像もしたくないですね、わたくし自身もそんな状況は想像したくはないです・・・。
でも、いつ起きるのかだけは不確実なのだけれども、いずれ起きるのは確実なことです。
よって、大切なご家族のために、ぜひ、ちょっとだけ我慢して、本記事をお読みください・・・。
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さて、話を元に戻します。
あなたの身に、もしものことが発生してしまいました・・・、その時に遺言書がなかったら、どのようなことが起きるのでしょうか・・・。
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以下は、法律上の厳密さよりも、おおざっぱにいって、どういった点が大切なのか、ということを、ごく一般の方にわかりやすく説明したい、という主旨の記事内容になりますので、そこの点はご留意をお願いいたします。
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法律(民法)上は、あなたが亡くなった瞬間に、あなたの財産は、配偶者の方と未成年の方に相続が発生することになります。
遺言書がありません(みつかりません)と、その財産を、配偶者の方と未成年の方でどのように配分するのか、については、遺言書がないために、関係者(相続人)で話し合いをしなければなりません、というように決まっています。
そして、その話し合いの結果について、遺産分割協議書という形で書面化していかなければなりません。
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書面化しなくても、実は問題が起きない場合もあります。
ですが、預貯金の解約、株や有価証券類の売却や名義変更、それから不動産(土地・建物)の売却や名義変更等の手続きにおいては、少なくとも遺産分割協議書を使用して手続きすることになります。
その手続きためには、有効な遺産分割協議書を提示しませんと、これらの手続きを受付してもらえません。
ここで、一点、注目していただきたいのは、上行において『有効な』という言葉を記載していることです。
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もしも、あなたが、
「それなら、残された親が子供の分まで遺産の配分を指定すればいいんじゃないのかな・・・?、わたし、子供の親権者なんでしょ」
と思われたのだとしたら、まぁ・・・確かにそうお考えるになるのも止むをえませんが・・・、実は法律上は、こういった親が子供の分まで遺産の配分を(勝手に)指定してしまうことを禁止しています。
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子供がいるのに、遺産分割協議書を作成した人(実印を押した人)が、もしも、あなただけでした・・・、という場合は、例えば、銀行における預貯金等の名義変更や解約手続きの際に、その手続きは拒否されます。
銀行は、戸籍謄本等から本来の相続人が誰であり、その相続人全員が共同して作成した(=実印を押した人)遺産分割協議書となっているのかどうか、という点を厳格にチェックします。
その過程で、戸籍上は子供がいるのに、あなただけの名前(+実印)だけで作成した遺産分割協議書は有効ではありません、という形で、銀行は手続きを拒否してきます。
これは、銀行側にしてみれば、本来の相続人でない人や、有効ではない遺産分割協議書に基づいて預貯金の払い戻しを行った場合、正当な権利をもつ人から裁判を起こされたら、さらに支払い(弁償)をしなければならない・・・という事情によります。
そして、その弁償分は、他の預貯金者へのしわ寄せとして影響が生じるわけですね。
もし、自分が弁償を受ける立場であれば、なんとしてでも弁償してもらおうとするでしょうが、一方で、赤の他人の案件で弁償しているということを知れば、それは銀行さん、何をやっているんですか!という話になるわけです。
だから、あなたは有効な遺産分割協議書を作成しなければならない、というわけです。
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ここで、ちょっと考えていただきたいのですが、本当に年齢的に小さな未成年(例えば、赤ちゃん・・・乳幼児ですね)であれば、親の庇護のもとで暮らしているわけですよね。
そもそも、あまり乳幼児自身から自分の財産について自己主張するという局面はあまりないように思います。
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子育て中の世代の方からすると、『子供イヤイヤ期』っていう言葉があるぐらい、お子様の成長の過程の一環で、親の意向に反対を意思表示することもありますが、ここでは財産のことについて話題としておりますので、まぁ、そういった状況ことは考えないでいただくようにお願いいたします・・・。
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よって、亡くなった方の全財産について、遺された子供も含めた日常生活への支出のために、という意味も込めて、配偶者が全部引き受ける・・・、という考え方は、当然にあるとは思います。
それは、ごくごく自然な発想であり、もともと、配偶者が亡くなってしまった状況を考えますと、将来的な不安で胸が押しつぶされそう・・・といった状況なのではないかと想像いたします。
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ですが、実は、法律上は、そんな状況だけを想定しているわけではないのです・・・。
法律上は、たとえ赤ちゃんであっても(相続についていえば、胎児であっても)、一人の人として、相続に関する権利を、遺された配偶者である親と(あくまで法律上ですが)対等に話し合うことのできる権利をもっている・・・、というように決められています。
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ここのあたりの感覚は、生活をしているうえでの実感と、少し(というか、だいぶ・・・)かけ離れているような法律上の仕組みだなという印象を思われてしまったとしても・・・、それは、むしろ正常な市民感覚なのではないのかなと、わたくしは思ったりします。
(わたくしも、民法を勉強している際に、えっ?そうなの??と思いましたので・・・。)
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でも、こう考えてください。
例えば、いわゆる「毒親」みたいな方がいたとして、法律で決まっている配分で遺産を親と子供(未成年者)で分けなければならないのに、その子供の分すら、子供に渡したくないような親だったとしたら・・・。
つまり、その毒親は、子供には遺産は一切やらないよと決めた・・・としましょう。
もしかすると、それはまんまと成功するかもしれません。
タンス預金ですと、遺産分割協議書を用いるような場面はなさそうですから・・・。
しかし、子供もいつかは成人します。
子供が大人になってから、あれ、なんで、そのとき独り占めしたの?と、言ってくるようになるかもしれません。
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もしも、そのような状況で、「だって、お前も、それで大きくなったんでしょ」とか、「あぁ、それは、法律上許されているんだからね(だから、一円もあげない)」という一言で片づけてしまったとしたら・・・。
そういったことを容認するような法律だったら、これは相当、不公平な法律ではないでしょうか・・・。
真実、生活費のために支出したのであれば、未だ理解する余地もあるでしょうが、実は親の遊興費に使われていたとしたら・・・。
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上記の例は、あまりにも極端すぎでしょ・・・、と思われるかもしれません。
でも、それがどうにも納得のいかない理由や状況であった場合は、金額が比較的少額であったとしても、多少は感情的なしこりは残るものではないでしょうか。
実際、遺産相続で紛争(裁判や調停)となっている案件のうち、1,000万円以下の遺産額というのは、比較的多いのだそうです・・・。
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前置きが長くなりましたので、話を元に戻しますと、配偶者と未成年の子供を残して死亡した場合は、遺言書を作成していませんと、未成年者を代弁する代理人を家庭裁判所に選んでもらう手続きが必要となります。
そして、成人の相続人(配偶者)と、その代理人全員で遺産分割協議書を作成します。
お子様がお一人であれば代理人は一人で済みますが、もしも二人、三人とお子様がいらっしゃる場合は、そのお子様の人数分、代理人の選任が必要になります(つまり、代理人の数も、二人、三人と必要となります)。
そういった過程を経た形での遺産分割協議書でないと、先ほど述べた、金融資産や不動産の名義変更ができないんですね。
ここで追記しておきたいのは、その代理人とは、祖父、祖母、叔父や叔母だったりする場合もありますし、法律専門職の方だったりする場合もあります。
いずれにしても、裁判所に代理人を指定してもらう手続きをするわけですから、手間がかかることは間違いありません。
いくら裁判所に申請するといっても、ちょっと大変そうですよね・・・。
それに、今の時代ですので、未成年の方の親戚にあたる方と、日常的に密接な交流があるかどうか・・・という問題もありますよね。
要は「おばちゃん、お願い!」という頼みごとができる関係なのか、ということです。
また当然ですが、法律専門職の方であれば、一定の報酬を支払う必要が出てきますね・・・。
それが、子供の数だけ必要だなんて・・・。
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こういったことを、遺された家族に負担させるとなると・・・、ちょっと大変な状況となることが想像できますよね。
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死亡保険金は、遺族が(今まで手元になかった)お金をもらえる形になるのでわかりやすいのです。
未成年の代理人を選んでもらって遺産分割協議書の作成・・・というのは、逆に手元にあった現金を使って処理しなければならないという、いわば、マイナスの遺産と手間を渡すようなイメージなんだと思ってください。
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ごくシンプルな遺言書の内容であれば、自分自身でも遺言書を用意できる可能性が高くなります。
自分で用意するということは、ほぼほぼ費用をかけずに、今のうちに準備しておくことができるというわけです。
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保管については、自力で遺言書を書いて自宅に保管しておくのであれば無料です。
自宅での保管ですから、何らかの原因で紛失する可能性はありますので、そこはしっかりと大切に保管してください。
ただ、あまりにも発見されにくい場所に保管していると、誰にも気が付かれなかった、という状況にもなります。
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あるいは、数千円程度の保管料を支払って、法務局で遺言書を預かっておいてもらう、ということもできます。
法務局に自分で書いた遺言書を預ける方式であれば、自宅保管中における遺言書の紛失リスクを回避することは可能です。
(遺言書を法務局に預けるには、ご本人が法務局に行って手続きいただく必要があります。)
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自宅で保管するにせよ、法務局で保管するにせよ、「自力で遺言書を書いて」おくパターンですと、いわゆる遺言書の作成は自己責任となります。
つまり、せっかく書いた遺言書が、法律的な条件(要件)を満たしているかどうかを事前にチェックするのは、基本的には、あなた自身となります。
いざという時に、実は法律上は無効でした!、という可能性もあることだけは、ご留意ください。
もう、その時には、書き直しはできないので・・・。
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法律上、遺言書作成には、一定の決まりが存在していますので、その決まりに沿って作成されているかどうかが肝要となります。
一定の決まりを細かく定めておかないと、本当に本人が作成したの?という観点での争いになる可能性もあるからです。
実際、そういった紛争のケースも少なくないようです。
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このようなことから、自力で遺言書を作成される場合は、わたくしとしては、「ごくシンプルな遺言書の内容にした方がよい」と、お伝えしたく思います。
もっとも、シンプルな内容の遺言書が妥当なのかどうかは、皆様のご家庭の事情に応じて、ご検討いただくのが良いとは思います。
不動産を保有している、自家用車がある、など、人によって状況が異なるとは思いますので・・・。
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さて、当事務所では、近隣の皆様のお宅にお伺いしてチラシ配布をさせていただいてます。
伺ったお宅には、子供用の自転車やベビーカーなどが置かれている場合もあります。
我が家にも幼稚園に通う末っ子がおりますので、そのご訪問先の、心温まるご家庭の光景を思い浮かべながらチラシを投函させていただいております。
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このようなご家庭に向けて、本投稿記事の内容については、ぜひお伝えしたいと思っていたところでした。
しかし、チラシに、その旨、率直に書いてしまうのはどうかと思っていまして・・・。
「若くても遺言書を書くべきです!」なんて書いてあると、きっと、何か怪しい話なのではないか?と思われてしまうかもしれませんので・・・。
だいたいにおいて、行政書士事務所のチラシ自体、なんですかこれ?、行政書士事務所って、なにをしているんですか?、と思われるものなのかもしれませんから・・・。
配布しているチラシには細かくは明記していないです。
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本投稿におきましては、遺言書作成のメリットについて、何もお年寄りだけが作成のメリットがあるのですよ、ということではなく、子育て世帯にも十分メリットはあるという点について、ご紹介をさせていただきました。
皆様のご参考になりますと、幸いに存じます。
次の記事「[4]自力で遺言書を作成される方への参考図書のご紹介」をご覧ください。